春日部セントノア病院

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2012年8月

『拘束ゼロへの挑戦』
十年近く前、ある病院の慢性期病棟で、拘束をいっさいしないという試みのドキュメンタリー番組がテレビ放映されました。私は急性期病院にいましたので「頑張っているなあ」というくらいの気持ちで見ていました。番組では、その試みは今の人員では困難だという結論でした。
セントノア病院には、「拘束はしない」という基本方針があります。拘束すれば他患とのつながりが希薄になり、認知症がより早く進行するという見解に基づいています。
当院の拘束ゼロへの挑戦は、どこからかそのノウハウを借りてきたのではありません。それはまさに新しい試みであり、恐ろしいほどの努力が必要とされました。まずは建物の設計から始まり、マンパワーの増員、拘束を無くす手法の検討などなど、まさに血のにじむような努力が必要だったのです。
開院間もない頃、ある男性患者さんが入院してきました。入院時に診察室で家族と話していると、家族は患者の安全のために拘束を強く希望したのです。オープンして間もないころなので、私も当惑しました。「当院では拘束しないというのが病院の決まりですから、それはできません」。どう対処したら良いものか、そこで話が膠着しました。しばらくして医療福祉相談員の「拘束なしでまずやってみましょう。それからまた考えましょう」という一言で、入院が決まりました。その患者さんは車椅子を自分で操作できましたので、今まで何度も自分の足で蹴り上げて後方へ転倒し、後頭部を強打していたのです。入院してからしばらくの間、テーブルと壁の間に車椅子を置いて、たとえ転倒しても大事に至らないようにして観察しました。そうしたら、車椅子にオーバーテーブルを装着すれば大丈夫なことが分かりました。本人もそれが気に入って、そのテーブルの上に両手を置き、食事をしたり物をいじったりして、自由にホールや廊下を動き回ることができました。それで一度も大きな事故を起こすことがありませんでした。
それから六年経った現在、家族の承諾のもとにやむを得ず行う拘束は、ベッドの四点柵のみです。寝ていて、ベッドの上で動き回る人は四点柵をつけないと何度も転落してしまいます。実際にはこの四点柵対応すら殆ど行われておらず、そのスキルは六年前に比べて格段に進歩したのです。それで事故が多発しているかといえば、そうではありません。直近の集計を見ますと、平成二十四年六月の転倒発生件数は四件(全病床百六十八床)なのです。そのためには、スタッフの大変な努力が必要とされています。歩行もおぼつかないのに、一日中歩き回る人がいます。その場合は絶えずスタッフ一人が付き添います。日中は、病棟中央のホールにおおむね全員の患者さんが出ていますが、その要所にスタッフを配置し、転倒の危険が見られたときは、すぐ飛んで行けるようにしています。夜中はスタッフの数も減りますので、要観察患者さんはナースセンター脇の個室にベッドを持ってくるようにしています。このようなたゆまぬ努力をしても、残念ながら転倒などの事故はゼロにはなりません。そこでもし事故が起きたときには、KYT(危険予知トレーニング)評価という手法を取り入れて、その都度防止策を講じています。
拘束ゼロへの挑戦は、ゼロになるまでこれからも続くのです。

 

副院長 野 正孝